4種混合ワクチンについてのお話なのですが、まずポリオワクチンについてお話ししなくてはなりません。
ポリオは19世紀から20世紀にかけて世界中で流行しました。ポリオの主な症状は四肢の弛緩性麻痺ですが呼吸筋にも麻痺が現れて自力で呼吸ができなくなり死に至る恐ろしい病気でした。こうしたポリオの脅威に対抗するため、1950年台前半にソーク博士による不活化ポリオワクチン(ソークIPV)とセービン博士による経口生ポリオワクチン(セービン株OPV)が開発されました。
わが国では1960年に北海道を中心としたポリオの大流行がありました。当初はソーク株不活化ポリオワクチン(IPV)が導入されたのですが、流行のの抑制は難しいと判断され、緊急にセービン株経口生ワクチン(OPV)を緊急導入し定期接種化することで抑制に成功しました。
1981年を最後にわが国では野生株によるポリオの発症がなくなりました。わが国のポリオ根絶に大きく貢献したOPVでしたが約400万回接種に1例の頻度で見られるワクチン関連麻痺(VAPP)という重大な副反応が問題になりました。その間世界各国ではOPVからIPVに切り替えが進んでいきました。日本でも2012年から単独および混合ワクチンとしてIPVを使用するようになりました。
クワトロバック、テトラピック、スクエアキッズのいずれも初回免疫、追加免疫ともに良好な抗体か獲得され、安全性も確認されています。またクワトロバック、テトラピック、スクエアキッズを組み合わせて接種しても良好な抗体価が獲得できることが確認されています。ご両親が我が子に接種する4種混合ワクチンも選択できるようになったのです。
ソークIPV4種混合ワクチンを希望される赤ちゃんは受付でお知らせください。
B型肝炎はB型肝炎ウィルスが血液、体液を介して起きる肝臓の病気です。
全世界では約3億人がB型肝炎ウイルスに感染し、それに関連した病気で、毎年約60万人が死亡しています。日本ではB型肝炎ウィルスに感染者は約100万人と推定されています。
B型肝炎ウィルスに感染しても、誰もがキャリア(ウィルスが体内にずーっと残った状態)になるわけではありません。しかしキャリアになると、慢性肝炎になりやすく、将来肝硬変から肝臓ガンに進行することがあります。
赤ちゃん、特に3歳未満の乳児がB型肝炎ウィルスに感染すると、免疫力が弱いために体外にウィルスを排出するチカラが弱いためにキャリアになる危険性が高くなります。
赤ちゃんが生まれたらできるだけ早いうちにB型肝炎ワクチンでウィルスから守ることが大切です。
近年感染経路が不明で乳幼児が増えていて、垂直感染予防だけでは対策が不十分といえます
WHO(世界保健機構)では1992年、世界中の子ども達に対して、生まれたらすぐにB型肝炎ワクチンを接種するように指示しています。
B型肝炎ワクチンはほとんどの国で定期接種になっており、ユニバーサルワクチネーションと呼ばれています。
世界中でワクチン接種を広めることで、母子感染(垂直感染)、父子などからの乳児期の水平感染、性交渉での成人の水平感染を予防し、感染源の撲滅や肝硬変や肝臓ガンなどによる死亡をなくそうとしています。
もともとB型肝炎ウィルスの陽性者率の高いアジア、アフリカ諸国や慢性化しやすいタイプ(ジェノタイプA型)の多いヨーロッパ、アメリカは定期接種になっています。
現在日本では母子感染対策が1986年よりはじまりました。これによりほぼ新規のB型肝炎ウィルスの母子感染を防げるようになり、母子感染は激減しています。
我が国では急性肝炎でも慢性化が低く、これまで通り母子感染(垂直感染)が新しいB型肝炎ウィルスの感染原因であれば、現在の母子感染予防事業だけで日本のB型肝炎ウィルスは根絶できると思われます。
これから国際化が進み、ウィルスも外来種である慢性化しやすいウィルスが国内で増加すれば、水平感染での持続感染者が増加することが懸念されます。
知らないうちにかかってしまいキャリアになってしまわないよう、やっぱりB型肝炎ワクチンをうけましょう。
日本で2010年に肺炎球菌ワクチン(プレベナー7)とHibワクチンが導入されわが子のために高額な費用をはらっていただきながら髄膜炎予防のワクチン接種はひろがっていきました。おかげさまで2013年より定期予防接種となり全国で無料接種となりました。下に日本におけるワクチン導入前後での肺炎球菌による侵襲性細菌感染症(髄膜炎、肺炎、敗血症など)の罹患率の変化を示します。いかにワクチンが有効であったかおわかりいただけると思います。
肺炎球菌ワクチンは現在もっとも髄膜炎を起こしやすい7種類の抗原に対するものになっています。ワクチン接種で劇的に子ども達を髄膜炎から守ることが出来ました。しかし日本より10年先にワクチン開始していた海外では、使用していた肺炎球菌ワクチンに含まれない抗原による髄膜炎が増えてきたために、新たな肺炎球菌ワクチンを開発し導入しています。プレベナー13といいます。米国では2011年より導入されました。
米国におけるプレベナー7(PCV7)、プレベナー13(PCV13)の導入前後の侵襲性細菌感染症の報告数を示します。
PCV7を始めて急速に患者さんの数は減少しましたが2006年頃より増加傾向が認められました。しかしPCV13を導入しふたたび減少しているのがわかります。
日本でも同様な経過をたどることは予測されましたので、早期にプレベナー13が導入されることを期待していました。そして日本でも2013年11月よりプレベナー13に全面変更となりました。
6才以下で、すでにプレベナー7の接種を2013年11月までに4回完了しているお子さんは、最後の接種から8週間以上経過した後にプレベナー13を追加補充接種していただくと、追加6種類に対する抗体は上昇します。1回だけで十分効果がえられます。残念ながら補充追加接種に関して国はまたもや無料化してくれませんでした。しかしプレベナー7と全く別な必要なワクチンとして接種していただけることを希望しています。
VPD ワクチンで予防できる病気から子ども達を守ってあげたい!
医学が進歩した現在でも、世界中にはとてもたくさんの感染症があります。マラリアやデング熱のように、ワクチンがないために有効な予防が出来ずたくさんの大切な幼い命を奪っている感染症も少なくありません。ワクチンは、かかってしまうと治療法がなかったり、重い後遺症を残したり、大切な子どもの命にかかわるような病気にかからずにすませるものです。
感染力が強く、かかると今でも治療が難しく命にかかわることもあるからこそワクチンがつくられました。ワクチンさえ接種してあればかかることのなかった病気に子ども達をかからせてはいけないと考えています。
予防接種でおなじみの病気もありますね。このVPDが子ども達の命にかかわる病気なのかピンとこないかもしれません。でも現実に日本ではまだまだ子のVPDに感染して苦しんだり後遺症を残したり死亡したりしているのです。私は小児科医として、予防接種さえしてあればと悔しい経験を幾度となくしてきました。
A. 多くの人達が予防接種を受けて抵抗力をつけているから、その病気が流行していないのです。受けない人が増えてくるとまた流行します。流行していないから予防接種は必要ないというのは乱暴だと思います。
A. それはちがいます。はしかは子どもにとっては重症になる病気です。命にかかわることさえあります。子どもだから軽く済むということも絶対にありません。はしかにかかると、まだはしかにかかっていない子ども達にどんどんうつしてしまいます。予防接種を受けるということは、本人のためでもあり周囲の人達のためでもあり、大切なマナーであると思います。
A.予防接種を受けた後に、接種部位が腫れたり、しこりになったり、熱が出たりすることがありますが、ほとんどは一時的なもので心配ありません。ごく稀に重い副反応が起こることがありますが、現在のワクチンは日々進化しており、以前に比べてその発生はぐんと減っています。
A.はい、必要です。予防接種のために起こるかもしれない副反応よりも、治療法のない病気にかかってしまうほうがはるかに危険だからです。副反応に心配するあまり病気の恐ろしさを忘れないようにしたいものです。
A.はい!本来そういう子どもさんこそ予防接種が必要なのです。
日本で使われているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、その効果持続期間は半年程度です。またインフルエンザウィルスは毎年流行する株が変化するため、毎年WHOが翌年に流行が予想される株を決定しています。ですから毎年ワクチン株は変更されるために毎年接種することが大切になります。
インフルエンザワクチンは、インフルエンザの発症を予防する効能があります。ただし100%の効果を期待することは出来ません。
ワクチンを受けても残念ながら発症される方もいらっしゃいます。
しかしインフルエンザは他の感染症と異なり1シーズンを通してみると多くの方がかかる疾患、罹患率の高い(かかる確率の高い)病気ですから、ワクチンによって患者数を減らす効果は大きく現れます。個人個人の有効性に限界があるからこそ、インフルエンザワクチンは多くの方が接種して集団免疫効果を期待します。
インフルエンザワクチンの接種率が83%を越えると、接種していない方もインフルエンザに罹りにくいという形で証明されています。
ワクチンを受けられない6か月未満の乳幼児、アレルギーや基礎疾患でワクチンを受けられない集団を守るためにも、より多くの方にワクチンを接種していただき、社会全体を守っていただきたいと思います。
ロタウィルスは毎年冬から春にかけて乳幼児を中心に流行する胃腸炎(ウィルス性胃腸炎)をおこすウィルスです。ウィルス性胃腸炎ではノロウィルスが有名になりましたが、子どもではロタウィルス胃腸炎がもっとも重症になりやすく、脳炎などの重症な合併症を起こします。生後5-6か月ころからかかりやすくなり、日本では毎年120万人がロタウィルス胃腸炎に感染し、80万人が外来受診、8万人が入院、約10人が死亡しています。感染力がとても強く、保育園や幼稚園、家庭内でもあっという間に流行します。3〜5才頃までに何回もかかることがありますが重症になるのは主に最初の1〜2回です。しかし1才以下でかかると脱水になりやすくパパママは大変でした。それがワクチンによって感染を予防したり、重症化を防ぐことができるようになりました!
とにかく感染力が強く、手洗いや消毒だけでは感染を予防出来ません。日本では命にかかわる状態になることは非常にまれですが、他の胃腸炎に比べて下痢、嘔吐、発熱症状が強いため脱水になりやすく重症化するため、かかったお子さんの5人に1人は入院し、入院にはならなくても点滴を必要とします。パパママが働いている家庭では長期間仕事を休まなくてはならず経済的負担にもなってきます。
ロタウィルスワクチンにより重症になるのを90%防ぐ事ができます。ワクチン以外で根本的治療法はありません。WHO(世界保健機構)はロタウィルスワクチンを子どもが接種する最重要ワクチンの1つに位置づけています。現在世界129カ国で接種がおこなわれ、非常に高い予防効果が認められています。
ロタリックス | ロタテック | |
含まれる血清型 | 1価(1種類) | 5価(5種類) |
接種方法 | 経口 | 経口 |
対象年齢 | 生後6週~24週 | 生後6週~32週 |
初回接種奨励期間 | 14週6日までに | 14週6日までに |
接種回数 | 2回 | 3回 |
ロタウィルスにはいくつもの型があります。ロタリックスは「G1」という一番流行し重症化しやすい血清型に対応しています。(1価)
ロタテックはG1、G2、G3、G4、P1A[8]の5つの血清型(5価)に対応しています。
ロタリックスは1価ですが交叉免疫により流行する他の血清型への免疫を獲得しロタテックと同様の範囲がカバー出来るといわれています。ロタウィルス胃腸炎の予防効果は変わりません。
ロタウィルスワクチンは世界中で多くの調査がおこなわれており、安全性は非常にたかいです。以前開発されたロタシールドというワクチンは接種後に腸重積症が多く起こったため発売中止となりました。ロタリックス、ロタテックに関しては心配ないとなっていますが合併症として「腸重積」を起こさないようにしなければなりません。そのため初回接種は14週6日までに初回接種をする事が推奨されています。
ロタウィルスワクチンは生ワクチンですからウィルスが便に排泄されます。ロタリックスの方がロタテックより便に排泄されやすいようです。ただそのウィルスで周囲にウィルス性胃腸炎を起こす確率は非常に低いと言われています。ただおむつ交換の後はしっかり手洗いしましょう。
ロタウィルスワクチンは重要なワクチンですが残念ながら任意接種で費用がかかってしまいます。しかしワクチン接種により赤ちゃんのロタウィルス胃腸炎を予防する事が出来れば、ひどい脱水を起こし通院を続け入院をするようなつらい目にあわせなくてすむのです。生後2か月になったらヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンと共に同時接種で受けてください。